生後2ヶ月ごろより、赤ちゃんは指しゃぶりするようになります。指一本だけをしゃぶることもあれば、指5本を器用に口に入れてしゃぶることもあります。こぶしをつくって指の付け根あたりをしゃぶることもあるでしょう。

ここでは便宜上、どの部位であろうと手をしゃぶることを「指しゃぶり」と呼ぶこととします。

 

自分の身体を認識するプロセスとして

赤ちゃんはなぜゆびしゃぶりをするのでしょうか? その理由は、「自分の身体を認識するため」と「精神的な安定のため」のふたつです。

ではまず、身体の認識について説明しましょう。

生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ自分の手や足を思い通りに動かすことができません。それだけではなく、実は自分に手や足があることも知らないのです。

しかしなにかが手や足に触れれば、それを感じることはできます。

生後1〜2ヶ月ごろになると、赤ちゃんは機嫌が良い時に手足をパタパタと動かすようになります。手がたまたま口元にあたると、「吸てつ反射」と呼ばれる反射的な反応により、赤ちゃんは指しゃぶりをします。(「吸てつ反射」とは、口に触れたものに吸いつく新生児期特有の原始反射のひとつです。詳しくは http://kokoro-sodate.com/genshi-hansha/ をご覧下さい。)

そうすると、なにかをしゃぶっているという口の触覚と、しゃぶられているという手の触覚の両方が脳へと伝達されます。このふたつの触覚刺激が同時に脳へ伝わることにより、赤ちゃんは「いましゃぶっているものは自分の一部なんだ」と徐々に認識していきます。

わかりやすくするために、今度は赤ちゃんが手につかんでいるおもちゃをしゃぶっているとしましょう。このとき、口がなにかをしゃぶっている触覚は脳に伝わりますが、しゃぶられている感触は伝わりません。

この場合、赤ちゃんは「いましゃぶっているものは自分の一部ではない」ことを認識します。

また、このように自分がした行動(=しゃぶる)に対して、五感から反応が返ってくる(=しゃぶられる感触)ことを「フィードバック」と呼びます。このフィードバックの繰り返しを通して、赤ちゃんは「手が自分の一部であること」や「どのように動かせば口へ手を運べるのか」を学びます。

大人でいえば、事故で手を怪我した場合を想像するとわかりやすいでしょう。手術してすぐは手をうまく動かすことができません。しかしリハビリで練習することにより、少しずつ動かしやすくなるものです。

どのくらい力を入れればどの程度動くのか、経験しながら学習する必要があります。赤ちゃんも同じように手の動かし方を少しずつ覚えます。手だけではなく、足やお尻、頭など身体ぜんぶについて同じことがいえます。

 

精神的な安定のために

赤ちゃんが指しゃぶりをするもうひとつの理由は「精神的な安定のため」です。

なにかをしゃぶっているとき、赤ちゃんの脳内では「オキシトシン」という精神を安定させるホルモンが分泌されます。オキシトシンは母乳やミルクを飲んでいるときにも分泌されます。つまりお腹が満たされるときや口で何かをしゃぶるときに、赤ちゃんは心地いい状態になるのです。

0ヶ月ごろの赤ちゃんは、母乳やミルクを飲んでいるとき以外はほとんど寝ています。しかし1~2ヶ月ごろからは目覚めている時間が少しずつ増えます。

ママやパパが忙しくしいて、ひとりで横たわっていることも出てきます。寂しくなって泣くこともありますが、指しゃぶりを発見してからは、指をしゃぶりながら機嫌良く過ごす時間が増えます。赤ちゃんにとって最初の遊びといえるかもしれません。

余談ですが、授乳中のママの脳でもオキシトシンが分泌されます。授乳をしていなくても、わが子を眺めながら「かわいい」と感じるときにも分泌されるとのことです。「わが子の笑顔や寝顔に癒される」とよく言いますが、オキシトシンの働きも関係しているのでしょう。

 

指しゃぶりはやめさせるべきか

「幼稚園にあがってからも指しゃぶりをするような子になってほしくないと思っています。赤ちゃんのときから指しゃぶりはやめさせた方がいいでしょうか」というご相談を受けることがあります。

赤ちゃん時代の指慰謝ぶりをやめさせるべきか、その答えはNOです。

まず、この時期の指しゃぶりをやめさせること自体が不可能といえます。生後半年以内の赤ちゃんに「指しゃぶりをしてはだめだよ」と言っても理解できません。しているときにママが赤ちゃんの手をはずしたとしても、またすぐに始めます。

また、「せっかく気持ちよく指しゃぶりをしていたのに!」と赤ちゃんは怒ったり泣いたりするでしょう。機嫌のわるい赤ちゃんをあやすのは一仕事です。これでは、やめさせようとすることがかえってお互いのストレスになってしまうと言えます。

先に説明したように、この時期の指しゃぶりには「自分の身体を認識すること」と「手を動かす練習をすること」という役割があります。赤ちゃんの自然な発達ステップのひとつとして捉えるとよいでしょう。

幼稚園の年齢になっても指しゃぶりをしている場合は、「精神的な安定」としての役割が大きいと思われます。その場合は指しゃぶりそのものをやめさせようとするのではなく、気持ちが不安定になっているそもそもの原因がなにかをよく見極め、そちらの対応をすることが大切です。