叱咤激励は、誰のため?

子どもが、顔の絵を上手に描けない。

子どもが、友達仲間に「入れて」と言えない。

子どもが、逆上がりの練習をしようとしない。

 

こんなふうにわが子が何かできない場面では、どのような声かけをしますか?

 

「◯◯ちゃんの絵を見て、真似して描いてごらん。きっとできるよ。」

「勇気を出して、入れてって言っておいで」

「もっと地面を蹴って、お腹に力を入れてやってみよう」

 

まずはこんなふうに、あれこれ励まして、なんとかやる気を引き出そうとするでしょう。

これですんなり子どもが言われたことを実行できれば、この対応で問題ありません。困るのは、いくらやさしく励ましても、子どもが言われたことを一向に行動に移さないときですね。

私自身も経験がありますが、ママは子どもの煮え切らない態度に業を煮やし、強い口調で叱咤激励してしまいます。

「まずは◯を描けばいいんだよ。ほら、できるでしょう。早く描いてみて!」

「入れてほしいときは、自分から言えないとずっと仲間に入れてもらえないよ!」

「みんな逆上がり出来るようになってるのに、自分だけできなくて恥ずかしいよ!」

イライラが高まって、こんなふうに子どもを責めてしまいます。しかし、このように声かけをして、果たしてやってほしいことを子どもがするでしょうか?

ほとんどの場合、答えはNOでしょう。

ママに責められたことで、よけいに泣き出してしまったり、さらに黙り込んでしまったり、怒り出したりして、やる気を失ってしまいます。

これでは、いくら叱咤激励をしても、子どものためどころか逆効果ですね。

こんなときは、ママ自身が状況に耐えられなくなって、自分の感情を爆発させただけです。表面的な言葉は励ましですが、自分の気持ちをすっきりさせるために怒ったに過ぎません。

(でも、ママも人間ですから、虫の居所が悪かったり疲れていたりして、つい感情をぶつけてしまうことはありますよね。そんなときは、しっかりと謝って仲直りしてくださいね)。

 

子どもの気持ちになってみる

ここで一旦立ち止まって、子どもの気持ちになってみましょう。いったいどんな思いがあるでしょうか。

「お友達の絵の方がずっと上手だ。あんあふうには描けない。自分は絵が下手なんだ。見られるのが恥ずかしくて、もう描きたくない。」

「入れてと言ったけど、聞いてもらえなかった。自分は友達に嫌われちゃったんだ。すごく悲しい。もう早く帰りたい。」

「一生懸命やろうとしても、どうしても逆上がりができない。もう足も腕もくたくただし、お腹が空いた。自分は、運動が苦手なんだ。悔しいし、悲しいし、こんな自分がもういやだ。」

簡単に言えば、自信を失った状態です。

絵を描く、逆上がりをするなど自分の能力に対する自信や、友達に遊びたい相手と思ってもらえるかという対人関係的な自信が、失われた状態です。

下の図を見てください。

自己肯定感図

一番下にある自己肯定感とは、「自分は大切な人間だ」「自分は生きる価値のある存在だ」「自分は必要とされている」といった気持ちをいいます。能力的な自信も、ここに含まれます。

しっかりした自己肯定感が土台となり、社会のルールを守ったり他人を思いやったりすることができるようになり、その上で新しいことへ挑戦する意欲や学習が湧きます。

つまり、ものごと達成しようとする意欲は、自己肯定感が安定してこそ発揮されるのです。

なにかのきっかけで自信を失ってしまうと、下の図のように自己肯定感が崩れてしまいます。

自己肯定感崩れた図

土台である自己肯定感が不安定だと、挑戦する意欲まではエネルギーがまわりません。自信を失った子どもに対して、いくら意欲を出すように働きかけても、なかなかうまくいかないのはこのためです。

少し励まして事態に取り組むことができるときは、子どものショックがそこまで大きくないということです。

励ましだけで意欲が湧く精神状態なのか、もしくは自己肯定感まで下がった状態なのかを見極めて、対応することが大切です。

 

自己肯定感を回復するのは、「共感」される体験

自己肯定感が下がってしまっていることに気づいたら、子どもの気持ちに寄り添い、共感してあげましょう。

「ママは自分の気持ちをわかってくれる」と感じると、子どもは「自分は愛されるに値する存在だ」と実感できます。

大人でも、つらいときはあれこれアドバイスされるよりも、ただ一言「つらかったね」と言ってほしい時がありますがよね。それと同じことです。

たとえば、こんなふうに声をかけてあげましょう。

「上手に描きたい気持ちがあるのに、うまくいかないんだね。それで悲しいんだね。ママもそういうことあるよ。大丈夫、そのうちできるようになるからね。」

「入れてって言っても、いいよって返事してもらえなかったんだね。もしかしたらお友達は聞こえなかっただけかもしれないけど、すごく悲しくなっちゃったんだね。一緒に遊びたかったんだもんね。大丈夫。元気がもどるまでママがぎゅうってしてあげるよ。」

「一生懸命やろうとしても、うまくいかないんだね。悔しいね。もどかしいね。もうだいぶ疲れたから、今日はここまでにしようか。どんな練習をしたらいいのか、帰ったら調べてみよう。いいアイディアがあるかもしれないね」

ポイントは、子どもの気持ちを言葉にしてあげ、受けとめることです。

遠回りに感じるかもしれませんが、自己肯定感や「ママにわかってもらっている」安心感を取り戻せると、子どもは自然とふたたびやる気が湧いてきます。

やる気が見えたら、ふたたび挑戦する環境をつくってあげましょう。

このとき、クリアできるレベルにハードルを下げたり、ほんのちょっとだけ手助けをしてあげたりしてください。

たとえば、顔の絵を描く時であれば、ママが手を添えて動きを少しだけ誘導してあげたり、絵をなぞることで完成度の高い顔を書く経験をさせてあげたりできます。

仲間に入りたい場面であれば、最初はママが横について代わりに「入れて」と言ってあげ、「このおもちゃはお友達の分だから渡してあげてね」など、友達との関わりが自然と発生する働きかけをします。

物の受け渡しは、言葉のやり取りよりもハードルが低いもの。何度か接触するうちに、子ども同士が自然と打ち解けるでしょう。

逆上がりの練習であれば、補助ベルトを使ったやり方や、鉄棒の高さや太さを変えてみるといった方法があります。

いろいろと知恵を使って、自信を積み重ねる工夫をしてくださいね。