大人になっても、遊び心や空想力の豊かな人は、なんだか生き生きとしていますよね。
遊び心や空想力のある人は、新しいことや難しいことにチャレンジする意欲が高く、ピンチや困難に出会っても前向きな姿勢を失わずに済むことが多いといえます。自分に対して、漠然とした自信や信頼感をもっているからです。
こうした自信は、どこからくるのでしょう?
その源のひとつは、幼児期の間に、空想力をたっぷりと使って「ごっこ遊び」や「なりきり遊び」をしたことにあります(もうひとつの源は、ママやパパからの無条件の愛情です)。
ごっこ遊びやなりきり遊びにより、万能感を体験することが大切
ごっこ遊びやなっりきり遊びとは、憧れの存在になりきり、その能力をあたかも自分のもののように味わう体験です。
憧れの存在は、身近なところではママやパパであったり、戦隊もののヒーローや魔法使い、お姫様や王様であったりします。出来ることの少ない小さな子どもにとっては、あらゆる対象が憧れです。
ママやパパになりたいときは、お家ごっこをするでしょう。小さな子どもがママになりきって「待っててね、今おいしいご飯をつくるからね!」とお鍋をかきまわしたり、パパになりきって「お仕事行ってきま〜す!」と鞄を持ってお出かけしたりする姿はなんとも微笑ましいですね。
戦隊もののヒーローや魔法使いにも、紙に描いたマークを胸に貼ったり、新聞紙を丸めただけの棒をもったりした瞬間に、変身してしまいます(もちろんアイテムがなくても、想像力だけで変身できることもありますね)。誰よりもかわいいお姫様になったり、誰よりもえらい王様になったりもします。
こうして空想の世界で、どんな強い敵でも最後は必殺技で倒したり、どんな困難な状況でもあっと驚く魔法で解決したり、世界で一番愛される存在になったり、誰もが言うことを聞く存在になれたりします。
こうしたなんでもできる感覚を、万能感といいます。
ごっこ遊びやなりきり遊びは、万能感を味わうためにやっているといっても過言ではありません。万能感をたっぷり体験することは、自信を育てる上でとても大切な過程です。
万能感は、自信という花を育てる上質の肥料
自信を植物の花に例えるなら、万能感は上質の肥料です。
万能感を体験すればするほど、やがて出る芽は太くて強く、根をしっかりと張ることができます。
反対に、万能感を体験する機会が少ないと、肥料が不足してしまいます。ひ弱な芽は、ちょっとした雨風にあただけで、簡単にしおれてしまいかねません。
万能感とわがままの境目
万能感をたっぷり体験させるとよいと聞くと、「では、何でも子どもの望む通りにしてあげなくては」と勘違いする親がいますが、はっきり言ってこれは間違いです。
現実の世界では、社会のルールをひとつずつ教えていく必要があります。
できないものはできない、してはいけないことはいけないと根気よく教えたり、自分の気持ちと周囲の状況との折り合いをつける訓練をしたりすることはとても大切です。
周りが自分に合わせくれるからなんでも自分の思い通りになると思って育ってしまったら、学校生活や社会人生活が始まってから現実を受け容れられず、不登校や出社拒否、家庭内暴力などさまざまな問題行動へつながっていきます。
万能感を味わってよいのは、あくまでごっこやなりきりの「遊び」の中です。
遊びをやめて、現実の世界にいるときには、必要なルールを教えるためにダメなことはダメときちんと明確な線引きをしましょう。
ごっこ遊びやなりきり遊びは、傷ついた自信を回復させる
世の中の大部分は、自分の思う通りにはなりません。ましてや、能力的にできないことがたくさんある小さな子どもの世界は、大人以上に思う通りにならないことだらけです。それだけに、子どもの自信はいろんな場面で傷つきます。
しかし、傷ついた自信を、ごっこ遊びやなりきり遊びの世界が癒してくれます。失った自信に再び上質の肥料を与えてくれるからです。
たとえば、友達のように上手に折り紙を折ることができないAちゃんの例をお話しましょう。
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Aちゃんは手先があまり器用ではなく、折り紙やお絵描きに対する苦手意識をもっていました。
そんなAちゃんはある日、幼稚園ごっこをはじめました。Aちゃんは先生役です。
先生(Aちゃん)「はい、こうしてこうして折ってください」
生徒(ママ) 「先生、こうですか?
先生(Aちゃん)「あ〜、ちょっと曲がっているね。
なかなかうまくできないねえ。
では、先生がお手本をするのをちゃんと見ていてくださいね」
先生役のAちゃんは、自信満々に架空の折り紙を折って次々と作品を生み出します。
生徒役のママも、一生懸命折る真似をします。
先生役のAちゃんは何度か生徒役のママにダメだしをします。
先生(Aちゃん)「今度は上手にできましたね!よくがんばりました!」
生徒(ママ) 「やった〜、うまく完成した!」
(2人で喜んでぎゅうっと抱き合って喜ぶ)
ここでAちゃんは満足したように、「次はトランプをしよう」と言って別の遊びへ移行しました。
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いかがでしょう?
遊びの中で、Aちゃんのこころが自信を取り戻す過程が、手に取るように分かりますね。
先生役になることで、折り紙を上手に折る万能感を手に入れています。さらに生徒役のママを最後は誉めてあげることで、「はじめは上手くできない自分だけれど最後はできるようになった」というイメージをつくりあげることができました。
ごっこ遊びにつき合ったり見守ったりするときは、このように子どもの自信や願望が満たされる展開を待ってあげることが、自信を育てるコツです。うまく展開しないときは、その方向へ行くように言葉を挟んで手伝ってあげましょう。
このようにごっこ遊びやなりきり遊びは、自信の肥料となるだけでなく、自信を失くしたときの回復手段という意味もあるのです。思いどおりにはならない世の中をしなやかに生き抜くには、必須な能力です。
だからこそ、子どものうちに空想の世界を豊かに広げておくことがとても大切です。空想力が乏しいと、「だって自分はできないから」という傷つきのイメージから脱却するのが難しくなってしまいます。
最初に書いたように、大人になっても遊び心や空想力のある人の方が、新しいことや難しいことにチャレンジする意欲が高く、ピンチや困難に出会っても前向きな姿勢を失わずに済むことが多いのは、このためです。
ごっこ遊びやなりきり遊びの時間を大切に
このように、ごっこ遊びやなりきり遊びは、子どもの自信を育てる上質の肥料であり、また自信を回復させる大切な手段でもあります。ぜひ小学校に上がるまでに、こうした遊びをする時間をたくさんとってあげましょう。
子どもの想像の世界は、大人から見れば突っ込みどころが満載です。「その展開はおかしいんじゃない?」「そのキャラクターはそんなことしないんじゃない?」などと言いたくなることもたくさんあるでしょうが、万能感を味わう世界に水を差さないであげましょうね。
現実の世界で思い通りにならないことがたくさんあるからこそ、空想の中では好きなようにさせてあげてください。
また、小学校に上がるまではできるだけ「課題をこなす」時間よりも、ごっこ遊びやなりきり遊びをする時間が多いように気をつけてあげましょう。その瞬間の気持ちに応じて、自由に遊びを展開できる環境が大切です。
家庭の方針で、幼稚園受験や小学校受験の準備に励むこともあるでしょう。この場合どうしても子どもは、課題をこなす、求められていることに応じる、相手の反応を見て自分の出方を決める、といった時間が増えてしまうのが現実です。
実は、思春期以降に不登校や家庭内暴力、ニート、などの問題行動を起こす子どもの多くは、小さいうちにごっこ遊びやなりきり遊びなどの空想力を自由に使う経験が少ない傾向にあります。課題をこなすことに負われてしまった結果、一見いろんなことができて自信があるように見えても、肥料が足りずに弱い自信の花しか育っていないのです。
受験対策や習い事に励むのであればなおさら、子どもが飽きるほどごっこ遊びやなりきり遊びがをする時間も同時にもてるようなペース配分に気をつけてあげましょうね。