子どもを可愛く思えない悩み

「せっかく産まれたわが子を、可愛く思えない。

こんな悩み、誰にも話せない。

パパにも知られたくない。」

そう考えて、1人で苦しみを抱えているママは、実はけっこう居ます。

こうしたママを苦しめるのは、「母親とは、子どもを可愛く思って当たり前」という社会的な前提です。当たり前のことができない自分は母親失格だ、人間として間違っている、などと、ママはどんどん自分を責めてしまいます。

しかし、わが子を可愛いと感じるには、あるホルモンが充分に分泌されていることが不可欠だということがわかってきました。このホルモンが不足した状態にあると、人は目の前にいる存在を愛おしいと実感することが困難になるのです。

例えば、胃を壊して胃液が充分に分泌されない状態にある時、人はどんなに美味しいフランス料理を前にしてもそれを美味しいと感じて食すことはできません。同様に、子どもを可愛いと実感するために必要なホルモンが足りない状態にある時、ママが子どもを可愛いと実感できなくても仕方ないのです。

では、なぜこのホルモンが不足してしまうのでしょうか。

多くの場合、子どもを可愛く思えないママは周産期もしくは産後に、うつ状態に陥っています。うつ状態のせいで、ママの身体はホルモンバランスが崩れてしまうのです。

つまり、子どもを可愛く思えないのはママのせいではありません。必要なホルモンが充分に分泌されておらず、身体の休息が必要な状態にあるのです。

 

子どもを可愛いと感じるのは、オキシトシンのおかげ

オキシトシン、というホルモンの名前を聞いたことはありますか?

オキシトシンは、スキンシップや抱擁、愛撫などの刺激によって、脳内で分泌されるホルモンです。オキシトシンが分泌されると、人は心地よい感覚になったり、気持ちが安らいだりして、結果的に目の前にいる人を大切に感じることがわかっています。

誰かと抱き合ったり、キスをしたり、セックスをしたりすると、その人を愛おしいと感じたり、大切な存在だと再認識できたりしますよね。これは、こうした行為をするたびにオキシトシンが分泌されているからだとも言えます。

心配事があったりすごく疲れている時に、家族の誰かとぎゅうっと抱き合ったことは誰にでもあるでしょう。抱き合って数秒すると、こころの中がふわっと温かくなるような、心地よさで満たされるような、目の前の人とこころがつながって安心できるような感覚が芽生えますね。

抱き合うというスキンシップにより、オキシトシンが分泌されている証拠です。

こうした効果を生むため、オキシトシンは別名「愛情ホルモン」や「信頼ホルモン」とも呼ばれています。神秘的なまでに、身体と心はつながっているのです。

オキシトシンには、出産時には子宮の収縮運動を促進したり、産後には子宮の戻りを手伝う働きもあります。つまり健康な状態にある産後のママは、常にたくさんのオキシトシンを分泌しています。

また、産後の生活を考えると、ほとんどずっと子どもとスキンシップをしていることがわかります。母乳やミルクを与えるにしても、寝かせつけるにしても、あやしてあげるにしても、抱っこをしたり触れ合ったりしています。

その度に、ママの脳内でさらにオキシトシンが分泌されます。そしてオキシトシンの働きにより、今目の前で触れ合っているわが子を可愛い、愛おしい、大切な存在だ、と感じる気持ちが繰り返し体験され、母子関係が育っていきます。

これがいわゆる母性と呼ばれる感覚です。母性は、子どもを産んだ瞬間からあるものではなく、こうして体験により育つものなのです。

 

産後うつのママは、オキシトシンが不足している

しかしながら、なんらかの理由により産後のママの脳内でオキシトシンが充分に分泌されないことがあります。一番多い要因が、産後うつです。

産後うつとは、出産を機に発症したうつ病を指します。産後に一時的にホルモンバランスが不安定にになったことに起因し、数週間から数ヶ月以内に身体の回復とともに症状が解消することがほとんどです。

長期間にわたってうつの症状が続いていたり、出産前からうつの症状があったりする場合は、産後うつではなくうつ病という診断名になることがあります。

また、うつ病と診断名をつけたり投薬治療をするほどひどいうつ症状ではなくても、出産前と比較して明らかな気分の落ち込みや無力感、無気力状態などといった症状が見られる場合を、うつ状態と呼びます。

周産期に、一時的に産後うつもしくはうつ状態になる確率は、およそ13%と言われています。つまり、10人のママがいたら1人か2人いる計算です。

うつ状態でも、受診しないママが相当数いるので、実際はもっと多いと思われます。「あの時は必死でなにがなんだかわからなかったけれど、今振り返ると産後の自分はうつ状態だった」と感じるかを問うと、10人中4人程度が当てはまるようです。

うつ病もしくはうつ状態は、ホルモンラバンスの崩れと密接な関係にあり、とくにセロトニンの分泌が不十分な状態です。セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれており、ストレスを受け流し、心の安定や満たされた気持ちをもたらす働きがあります。

『「脳の疲れ」がとれる生活術』の著書、有田秀穂氏(東邦大学医学部教授)は、このように述べています。

オキシトシンとセロトニンが十分に分泌される生活は、心の疲れを癒し、心に充足を与えてくれるのです。

そして近年、オキシトシンとセロトニンの分泌には関連性があることがわかってきました。オキシトシンが、セロトニンの分泌を活性化させるのです。つまり、セロトニンが不足したうつ病のママは、オキシトシンが不足した状態でもあるのです。

心を安定させ、ストレスを受け流し、目の前にいる存在を大切だと感じるのに必要な2大ホルモン(オキシトシンとセロトニン)が充分に分泌されない状態では、子どもをかわいいと感じられなくても無理はありません。

 

まずは、自分を責めるのをやめましょう

うつ病もしくはうつ状態のママは、自分の子どもをかわいいと思えなくても、どうか自分を責めないであげてください。あなたのせいではなく、オキシトシンが不足していたせいだからです。

もう、ママは充分に苦しんでいます。

むしろ、自分一人だけでも精いっぱいな状況なのに、今までなんとか頑張ってきたことを自分で自分に褒めてあげましょう。あなたは、これまで本当によく頑張りました。

そしてこのことはうつ病だけでなく、パニック障害、甲状腺機能障害、ひどい月経前症候群など、さまざまなホルモンバランスの崩れを背景にした状態にあるママみんなに当てはまります。

原因がなんであれ、ホルモンバランスが崩れるとオキシトシンの分泌が不足してしまい、結果的に子どもを可愛いと実感できなくなることがあるのです。

そうか。

子どもを可愛いと思えないのは、自分が母親失格だからではなく、

疲れが溜まりすぎて、身体がうまく機能していないからなんだ。

…そう思えてきましたか?

もしかしたら、読みながら涙があふれてきているかもしれません。涙は止めないで、これ以上もう涙が出ないと思うまで、いっぱいいっぱい泣いてくださいね。

涙には、感情を浄化する力があります。

マイナスな感情を心に貯めていると、身体の働きにさらに悪影響を及ぼしてしまいます。ますますホルモンバランスの回復が遠のいてしまうので、この際しっかりと出しておきましょう。

涙を流したり、現状を納得できたりしたことで気持ちが少しすっきりしたら、どうやって自分の身体を立て直すのか、そしてこれから子どもとの関係をどう育てるか、をそれぞれ考えていきましょうね。