親子関係に行き詰ることは、誰にでもある

子どもとの関係がうまくいっていない。

怒りたいわけじゃないのに、子どものことを怒ってばかりいる。

子どもと会話がはずまない。

正直に言うと、最近子どもを可愛いと感じられない。

親子関係がうまくいっていないという悩みは、どんなママ(やパパ)にもいつかやってきます。子どもが1~2歳のうちにそう感じるママもいれば、小学校に上がってからこの問題に直面するママもいます。あるいは、子どもが成人したあとになって初めて悩むママもいます。

ぶつりかり合う時期が一度だけということもあれば、何度もやってくることもあります。ものすごく大きな山が突然やってくることもあれば、小さな山が何度もやってくることもあります。

どの山も、その親子にとって必然性のあるタイミングと頻度で起こります。

子どもがママと別の人格である以上、お互いの思いがすれ違ったりぶつかり合ったりする時期があるのは当たり前です。その上で、この山にどう対応したらよいかのヒントとして「触れ合ってオキシトシンの分泌を増やすこと」と「言葉で気持ちを伝える大切さ」についてお伝えしましょう。

 

1) 触れ合って、オキシトシンの分泌を増やす

親子関係がうまくいっていない時、子どもはその事態をどう感じているでしょうか? ぱっと想像がつくママは少ないはずです。

まずは、ママの側がどう感じているかを見てみましょう。たいていは、以下のように感じているはずです。

・こんなにいろいろやってあげているのに、まったく感謝されなくて腹立たしい

・あなたのためを思って言っているのに、どうしてわからないの

・怒りや悲しみの感情を散々ぶつけられて、もう疲れた

・私を振り回すのはもういい加減にしてほしい

・このままでは、この子を嫌いになってしまいそう

他にもいろいろあるでしょうが、どの感情も、子どもに対する怒りとつながっていることがわかります。では、怒りを抱えたママと一緒にいる子どもは、どう感じているのでしょう?

子どもは、「ママは、自分のことを拒否している」と感じています。年齢が低いほど、直感的にそう感じます。

この状態から親子関係を育てなおすには、ママも子どももお互いに「相手とつながっているんだ」という感覚を取り戻すことが必要です。

そこで不可欠なのが、オキシトシンというホルモンです。

オキシトシンは、別名「愛情ホルモン」や「信頼ホルモン」とも呼ばれ、スキンシップが刺激となって分泌される性質を持ちます。オキシトシンが分泌されると、人は心地よい感覚になったり、気持ちが安らいだりして、結果的に今触れ合っている人を大切に感じることがわかっています。

子育てにおいて「スキンシップを大切にしましょう」とよく耳にしますが、身体のふれあいが心のつながりに大きく影響するからなのです。

子どもが小さければ小さいほど、とくに小学校低学年くらいまででしたら、ママの気持ちが落ち着いている時を見つけて、できるだけ抱っこをしたり抱きしめたりしてあげてください。寝る支度が終わって布団に入る段階が、一番気持ちをゆったりさせられるよい機会ですね。

抱き合った瞬間はまだママの中で苛立ちがあっても、ぎゅうっとしながらわが子の感触を味わううちに、だんだんと心の中が温かくなってくるでしょう。オキシトシンの分泌が始まった証拠です。

腕の中にいる子どもの呼吸や体温を感じるうちに、「たくさん怒ってしまってごめんね」という気持ちが湧き出るかもしれません。あるいは、「こんなに一生懸命あなたのために頑張っているのに、思いが伝わらなくて悲しい」と涙が出てくるかもしれません。

この時湧いてくる感情は、深いところにあるママの本当の気持ちです。すぐに気持ちに変化が起きない時は、変化が起きるまでしっかりとぎゅうと子どもを抱きしめてくださいね。

抱きしめるという行為は、相手を受け入れることでもあります。「ママは自分を拒否している」と感じていた子どもは、今この瞬間はママが自分を受け入れ大切に思ってくれているんだと実感できます。もちろん、子どもの脳内でもオキシトシンが分泌されます。

こうした時間を増やすことで、少しずつ子どもを大切に思う感覚がまた育ってくるでしょう。

しかし、親子関係があまりにこじれていたり、子どもが受け入れなかったりして(多くの場合は年齢が上がるにつれて照れて嫌がるようになります)、とても抱っこをしたり抱きしめたりすることができないということもあります。

抱きしめることが難しい場合は、どんな形でも良いので日常の中で触れ合うことを意識的に増やしてください。たとえば以下のような方法があります。

・話しかけながら頭や顔を撫でる

・すれ違う時に背中に手を当てる

・ハイタッチをする

・肩たたきをしてあげる/してもらう

身体の触れ合いがきっかけとなってお互いに気持ちがほぐれ、普段しない会話ができることもあります。今一度、触れ合うことの大切さを見つめ直してみましょう。

 

2) 言葉で気持ちを伝える大切さ

親子関係がうまく行っていないママの話を聞くと、ほとんどの場合ママの本当の気持ちを子どもに伝えていません。

たとえば、産後1ヶ月で甲状腺機能低下症を発症したママの例をお話しましょう。

新生児のお世話を必死にこなしてはいたものの、病気のせいで体力も気力もまるで常にガス欠を起こしたような状態で、子どもをかわいいと感じる余裕はまったくありませんでした。

子どもが2才になる頃からだいぶ病気の症状は落ち着いてきましたが、イヤイヤ期が激しかったせいで怒ってばかりでした。

4才になった今も、自分の言うことに対して子どもはまず「イヤ」と言って否定的な応答から始まるため、毎日イライラさせられており、もうこんな子ほしくないと思う瞬間もあります。

寝顔を見ている時、今日もいっぱい怒ってしまってごめんね、と反省すると同時に、本当はもっと仲良くしたいのどうしたらよいかわからない、と切なくなります。

このママに、「いっぱい怒ってしまってごめんね」という気持ちと、「本当はもっと仲良くしたいんだよ。でもどうしたらうまくいくのかわからなくて、ママも困っているんだよ」という気持ちを子どもに伝えたことはありますかと問うと、「それはないです」というお返事でした。

仕事でたくさんのママたちからこうした相談を受けてきましたが、前者の「怒ってごめんね」は伝えていても、後者の「本当は仲良くしたいけど、どうしたらうまくいくのかママもわからなくて困っている」という気持ちを伝えられているケースはほとんどありません。

でも実は、そこが一番大切なメッセージです。

先に述べたように、子どもはたいていの場合「ママは自分のことを拒否している、自分を嫌っている」と感じています。まさかママが、自分と仲良くしたくて苦しんでいるとは、まったく想像できていないのです。

こうした気持ちは、言葉にすることで初めて子どもに伝わります。子どもが一人でそこまで視野を広げて理解に至ることは、まずありません。

・本当は仲良くしたい気持ちは、ママも自分も同じ

・ママもどうしたらよいかわからない

・ママも困っている

こうしたことを子どもと共有できると、関係のあり方が劇的に変化します。それまではのママと子どもの関係を図式に表すと、

スライド1

という形でした。ママが「怒る人」であり、子どもが「怒られる人」です。◯◯する人と◯◯される人に立場が固定されてしまっています。この図式の関係にある以上、子どもは常にママに攻撃されていると感じています。

それが、ママもどうしたらよいかわからず困っていること、また同じように本当は仲良くしたいと思っていることを伝えると、関係が大きく変化します。図式で表すと、以下のような状態です。

 

スライド2

「どうしたらよいかわからず困っていること」と「本当は仲良くしたい思い」を共有することで、ママと子どもは同盟関係になります。そして、同盟の目標である「より良い関係」を一緒に目指す仲間へと変化します。

ここではじめて子どもは、ママが自分のことを拒否しているわけではないことや、ママと自分は気持ちの上でつながれることを実感できるのです。子どもはどんなにかほっとした気持ちになるでしょう。

「以心伝心」という日本語がありますが、言葉にしなくてよいのはあくまで状況がうまくいっている時のことです。状況が解決に向かわない時は、こうして言葉で気持ちを伝えることはとても大切です。人間には、そのために言葉があるのです。

だいたい3才ぐらいの子どもであれば、ママが真剣にこうした気持ちを話せば伝わります。言葉通りにすべて理解できないことがあるかもしれませんが、それでもママが自分のことを思ってくれていること、本当は嫌われているわけではないこと、などはちゃんと伝わります。

ママと子どもの気持ちが落ち着いているチャンスを探して、ぜひ気持ちを言葉にして伝えてくださいね。お風呂の中や、寝る前にお布団に入る時などが、比較的話をしやすいタイミングでしょう。

先に紹介した、甲状腺機能低下症を患って以来ずっと子どもとの関係がしっくりこないというママにも、このことを伝えました。私の話を聞きながらママは涙を流し、こう話してくれました。

考えてみたら、たしかにずっと私はこの子になにかをさせようとしてきました。

だから、抵抗されていたんですね。

させるという関係ではなく、一緒に歩いていこうという気持ちで

子どもとの関係をやり直したいです。

今日さっそく、ゆっくり話す時間とつくってみます。

このあと1ヶ月に1回くらいの頻度で、3回ほどこのママとお会いしました。「本当は大好きなこと」「どうしたらうまくやれるか一緒に考えたいこと」を抱っこしながら伝えた時、子どもさんも大きな声でたくさん泣いたそうです。ママも涙が止まらなくなり、2人で今までの4年間に溜まりに溜まった気持ちを涙にして出したようだったと話してくれました。

そして、どんな場面でママが困るのか、どんな言われ方をすると子どもの側は嫌な気持ちになるのか、などをその都度話し合うようになりました。ひとつひとつの場面での改善点を見つけることとの積み重ねで、気が付いたら前ほど怒ることがなくなったとのことです。

そしてこう話してくれました。

この子も頑張ってるんですよね。

頭ごなしな言い方をしないよう気をつけよう、と思うようになりました。

この子なりに、一生懸命な姿を見ていると、最近胸がきゅーんとして

「ああ、かわいいな」という気持ちが湧いてくるようにになりました。

やっとこの子との関係が育ってきたのだと思います。

今後もいろいろと怒る場面はあると思いますが、

この子とこの先もやっていけるぞ、という気持ちになれました。

こうした報告を聞くたびに、言葉を通したコミュニケーションの大切さを改めて実感します。

「ああ、私こういうことしていなかったな」と思ったら、ぜひ今晩にでも子どもを抱っこしながら実践してくださいね。