すやすやと眠る生まれて間もない赤ちゃんをじっと見つめていると、急ににこっと笑みを浮かべることがあります。その時間はわずか1秒もあるかないか程度ですが、明らかに微笑しているように見えます。

このように赤ちゃんが微笑をする瞬間、周りの大人は「今笑ったよ!」「かわいいね!」などと言って盛り上がるものです。私と私の家族もこのようにわが子を中心に笑顔になることがよくありました。

そして「赤ちゃんはなにか楽しい夢でも見て笑っているのかな? そもそも楽しいや嬉しいという感情がもうあるのだろうか?」と夫が不思議がって言ったのを思い出します。同じような疑問を持つ方は多いでしょう。

この現象は早ければ生まれて数日で始まり生後2ヶ月目ぐらいまでの新生児期にのみ見られるので、「新生児微笑」と呼ばれます。

 

なぜ新生児微笑が起きるのか

まず「楽しいや嬉しいという感情がもうあるのだろうか?」について言えば、まだそのような発達した感情はないと考えられています。(周りからの刺激に対して楽しいや嬉しいと感じて笑うようになるのはだいたい生後3~4ヶ月ごろからであり、これを「社会的微笑」と言います。)

では生後0〜2ヶ月頃の新生児期にのみ見られるこの新生児微笑はなぜ起きるのでしょうか?

その答えは赤ちゃんの感情発達ではなく、周囲の人間の反応にあると考えられています。

目の前に生まれたばかりの赤ちゃんが居るとしましょう。その赤ちゃんが今にこっと微笑を浮かべました。

その瞬間あなたの中でどのような感情が芽生えますか?

冒頭の文章のように「ああ、かわいいな」と本能的に感じる人が大半でしょう。それがわが子ならなおさらです。そして「このかわいいわが子を一生懸命育てよう」と思うでしょう。

もし反対にこの赤ちゃんが微笑せずに怒った表情を頻繁にするとしたらどうでしょうか? 本能的に「赤ちゃんに拒絶された」と感じるのが自然な反応です。

自分を拒絶してるように感じる赤ちゃんを24時間休みなくお世話したいと感じるでしょうか?

YESと答える人はまず居ないでしょう。

人間は赤ちゃんを「かわいい」と感じるからこそ大変なお世話を一生懸命することができるのです。この「赤ちゃんをかわいいと感じる感情」を発達心理学の用語では「愛着」と呼びます

つまり新生児微笑の役割とは「自分を育ててくれる人が自分に対して愛着を抱くためのスイッチ」なのです。

 

愛着は少しずつ育つもの

「自分の赤ちゃんなのだからかわいいと感じるのは当たり前だろう」と思う方がいるかもしれません。しかし実は、親も赤ちゃんも生まれた瞬間にはまだお互いに深い愛着関係があるわけではないのです。

大人の恋人関係の発展の仕方と同じだと考えると分かりやすいでしょう。

初めて会うときは相手がどんな人かわかりません。まず外見の第一印象によって好感を抱くか否かが分かれます。

「笑顔が素敵だったから惹かれた」「さわやかな雰囲気が良かった」などいろいろあるでしょう。

次に実際に会話をする段階に入ります。相手が自分の話に興味を持ってくれたり自分の服装や言動を誉めてくれたりすると「この人は自分を認めてくれる」と感じて嬉しくなります。ここで相手に対してさらに好意を抱きます。

そしてその後デートを重ねる中で「大好きなこの人のためにいろいろしてあげたい」と思うようになります。たとえば相手の悩みを解決するための情報を集めたり落ち込んでいるときは楽しくなる計画を立てたりなどいろいろとするでしょう。そしてこうした行動に対し「ありがとう」と相手に言ってもらえることがなによりの喜びになります。

このプロセスを赤ちゃんとママとの関係に置き換えてみましょう。

まず第一印象の段階では先に説明した新生児微笑が重要な役割を果たします。そして実際のお世話が始まります。

たとえば抱っこをして母乳もしくはミルクを与える場面を見てみましょう。お腹が減ったと泣いていた赤ちゃんが抱っこしたらすうと泣き止みました。するとママは本能的に「私が抱っこしたからこの子は泣き止んだ。私はこの子に必要とされている」と感じるのです。

つぎにオムツ替えの場面でもこのような体験を例にとりましょう。

ゆるい便を日に何度もすることでオムツかぶれになってしまったとします。便をする度に丁寧にお尻を洗い、よく拭いてから薄くワセリンを塗ることを繰り返すうちにだんだんとオムツかぶれが改善してきました。するとママは「この子は私がちゃんとお世話をしてあげないといけない。この子は私が必要なんだ」と感じます。

こうしてお世話する日々の合間に、赤ちゃんがにこっと微笑を浮かべます。するとまるで赤ちゃんが「いっぱいお世話をしてくれてありがとう」「オムツかぶれを治してくれてありがとう」と言ってくれているかのようにママは感じるのです。日々の努力が報われる瞬間です。

さらに赤ちゃんとの肌の触れ合いや母乳を与えるといった刺激が脳からオキシトシンというホルモンの分泌を促します。オキシトシンは疲れを癒したり幸せな気持ちにしてくれる働きがあります。赤ちゃんを抱っこしながら幸せな気持ちになることでママはますますわが子をかわいいと感じ愛着が増すのです。

新生児のお世話とは昼夜を問わず1〜2時間ごとの授乳やオムツ替えを要し、想像以上に大変な作業です。それでもママが赤ちゃんのお世話を続けられるのは合間に見られるかわいい微笑や必要とされている実感、そしてオキシトシンの働きのお陰といえるでしょう。

このように新生児微笑は「ママが赤ちゃんに対して愛着を抱くためのスイッチであり、愛着関係が育つための潤滑油である」と言えるのです。