基本的信頼感とは

身体の発達は、道筋が目に見えてわかりやすいものです。赤ちゃんは、首がすわらなければ寝返りはできませんし、寝返りができなければお座りやハイハイはできません。先にできたことは、あとからできることの土台となります。

こころの発達にも、目には見えませんが、道筋があります。乳幼児期に完成すべき人間関係の土台を、基本的信頼感と呼びます。

自分の要求を思った通りに応えてくれる確率が高いほど、赤ちゃんはママへの信頼感が増し、ひいては世の中に対する信頼感が増します。

世の中が会社だとしたら、ママは窓口担当者だと考えればわかりやすいでしょう。ある商品について、その販売会社に電話で問い合わせをしたとしましょう。

親切丁寧に応答されたら、電話を切るときには「いい会社だなあ」と思います。反対に、「担当者が不在でわかりません」と言うだけで調べようともしない対応をされたら、電話を切るときには「なんてひどい会社だ。もう二度と関わらないぞ」と思うでしょう。

つまり、ママがどれだけ自分によくしてくれるかが、赤ちゃんにとって世の中がどれくらい信頼できるかを決めるのです。この基本的信頼感は、おおむね1才ごろまでに完成します。

では、基本的信頼感が低いとどうなるのでしょう。その場合、世の中は不安に満ちた世界となります。

何かを求めても耳を傾けてもらえない、期待をすれば裏切られる、ありのままの自分を認めてもらえない、自分は必要とされていない、といった感覚がこころを占めてしまいます。

このように基本的信頼感の低い人は、ものごとの捉え方が被害的であったり、自信がなくて消極的であったり、信頼し合える人間関係を築くことが難しくなってしまいます。

 

要求に応えられない時は、フォローをすれば大丈夫

赤ちゃんの要求にできるだけ応えることが、基本的信頼感の構築にとって大切だと頭で理解できても、100%要求通りに応えることは現実的には無理です。でも、安心してください。

応えられない場合は、手があいたときに「悲しかったね」「さびしかったね」などと気持ちに寄り添う声かけをし、泣き止むまで抱っこをしてあげましょう。

やさしく抱っこされ、ママのあたたかい声を聞くうちに、ママに悪意がないことを赤ちゃんは理解します。ママの呼吸や体温を感じ、自分が大事にされている実感を取り戻せば、ママへの信頼感はちゃんと回復します。

赤ちゃんが泣いてしまった場合は、このようにフォローすることを大事にしていれば、取り戻しのつかないようなこころの傷がつく心配はありません。

 

基本的信頼感がしっかり育ったら、ママ離れが始まる

基本的信頼感が1才ごろ完成すると、ママ以外の人との関わりを少しずつ増やし、子どもは世界を広げていきます。

たとえば、1才ぐらいまでは、眠いときの抱っこはママでないと受けつけなかった子どもでも、パパやおばあちゃんが抱っこできるようになります。あるいは、新しい友達に会ったときにずっとママの身体から離れなかった子どもが、機嫌のよい時は友達と交われるようになります。

このように基本的信頼感がしっかり出来上がると、ママを精神的な安定基地としながら、子どもは外の世界へ探索活動を開始します。

探索活動中は、未知の出来事がたくさん待っています。新しい発見やワクワクした体験もあれば、びっくりしたり怖い思いをすることもあります。

周りの大人や子どもは、ママほど自分の思い通りには行動してくれません。友達におもちゃをとられるなど、ショックを受けるようなことが起こります。子どもは悲しくなって泣きながら、ママの元へ駆け寄り、安心感の回復を図ります。

ママにしばらく身体をくっつけて、安心感の充電が完了したら、子どもはふたたびママから離れて興味の赴くままに遊びます。このように外の世界を探索することを、ママ離れと呼びます。

ママ離れは、1才半〜3才ごろまで、時間をかけて進みます。外の世界で傷ついたらママという安心基地で充電をし、また外の世界へ出向く。その繰り返しを通して、外の世界にも信頼できる人がいて、楽しい場所だと思えるようになります。

幼稚園の年少さんが始まるのが3才台なのは、心理学的発達を考えても理にかなっています。もっとはやくから保育園に通っている子どもの場合は、担任の先生らがママと同じ安定基地の役割を担います。

基本的信頼感がしっかりと育った子どもほど、ママ離れがスムーズです。なにか怖い思いをしても、ママの元へ戻れば必ず安心感を取り戻せる確信があるからです。また、世の中に対する安心感がもともと高いので、あまり恐怖心なく探索活動ができます。

 

ママ離れが難しくても、無理をさせず、受けいれることが大切

ママがどんなに一生懸命子どもに寄り添い、できる限りの要求に応えるようにしてきたつもりでも、ママからなかなか離れられない子どももいます。

子どもが持って生まれた繊細さが原因となっていることがあります。

こういうタイプの子どもは、生後5ヶ月ごろから人見知りが人一倍激しかったり、ママ以外の人はパパですら抱っこされることを許さなかったり、一度泣き始めると泣き止むまでものすごく時間がかかったりする、などの特徴があります。

もともと不安の高い子どもに、不安になるなと口で言っても不安は解消されません。不安を解消するには、怖かったけどチャレンジしてみたら大丈夫だったという安心感の積み重ねが、なによりも重要です。

その場合は、できることとできないことの間を、小さなステップでつないでいきましょう。

たとえば、児童館のボールプールで遊ぶのが大好きなのに、他の子どもがいるときは固まって中に入れないとしましょう。「大丈夫だよ、入ってごらん」といっても、入れません。

まず子どもの気持ちに寄り添います。「今日はお友達がいるから、ちょっとドキドキするね」などと言ってあげましょう。つぎに、本人がやれそうなことを探します。

たとえば、「じゃあ、ママがボールを取ってあげるから、中にぽーんと入れてみようか」と誘ってみます。やりたそうであれば、やらせてあげ、様子を見ます。何度も投げるうちに気持ちが解放されて、うっかり自分も中に入ることが出てくるでしょう。

もし提案を拒否したら、それ以上の無理強いはやめましょう。ほかのおもちゃで遊ぶと主張したら、「ボールプールで遊びたかったけど、今回は残念だったね。お友達がいても、そのうち入れるようになるといいね」と言って、子どものやりたいことをやらせてあげてよいです。

ここで大事なことは、ボールプールに入りたくても入れなかった自分をママが怒らずに受け入れてくれた、と子どもが実感することです。ありのままの自分を認めてもらえると感じる経験が、基本的信頼感を育てます。

 

ママの関わり方を見直してみましょう

子どもの基本的信頼感が充分に育たないもうひとつの要因に、ママの関わり方があるかもしれません。

ママ自身が、情緒不安定だったり、体調の優れないことが多かったりしませんか? 原因や対処法がわかることであれば、なるべく解消しておきましょう。

たとえば寝不足のせいでイライラしているのであれば、なるべく子どもと一緒に就寝して、睡眠をたっぷり取るようにします。菓子パンや冷凍のお惣菜でばかり食べているようなら、栄養バランスが悪かったり添加物の取り過ぎになっているかもしれません。食生活を立て直す必要があるでしょう。

また、ありのままの子どもを認めずに、「◯◯しなさい」と子どもをコントロールしようとしていませんか?

どんな要求にも応えようとしてきた赤ちゃん時代と違って、1才を過ぎたらいけないことはいけないと教える必要があります。また、子ども自身の意志が育ち、自己主張が強くなります。

子どものやりたいようにさせていては、たしかに一日がまわりません。そのため、いつの間にかママは子どもをコントロールしようと躍起になってしまうことがあります。

また、引っ込み思案な子どもに業を煮やし、「なんでもっとみんなのところへ遊びに行かないの」「◯◯ちゃんみたいにやればいいのに」など、子どもにとってやりたくてもできないことを言ってしまうことがあります。私自身も、たまにこうしたことを言ってしまうことがあるので、気持ちは分かります。

子どもをコントロールしようとするのも、できないことをやるように言うのも、こどもにとってはありのままの自分を認めてもらえない、また受け入れてもらえない、という感覚につがなります。これでは、基本的信頼感は育ちません。

しかし、基本的信頼感がしっかりと育たなければ、ママ離れはできないのです。

こうした関わり方が自分にあてはまると感じたら、やり方を変えましょう。まずは、子どもの気持ちに寄り添う言葉かけをします。

それから、「今度はできるといいね」「きっとそのうちできるよ」と、ブラスイメージの言葉を呪文のように添えましょう。「あなたはできないんだから」とマイナスな言葉を日常的に浴びせるより、ずっと効果的です。

つい子どもを責めしまったときは、「さっきはああ言ってしまってごめんね。本当は、やりたいのにやれないんだよね。わかってるよ」と素直に謝り、子どもの気持ちを受けとめてあげてください。ママの気持ちは必ず伝わります。また、誰かを傷つけてしまったときに、どう謝るというモデルを示すこともできます。

子どもがママからなかなか離れられないと、ママはイライラしてしまうこともありますが、突き放すよりも受け入れることが、ママ離れをする近道です。どこまでやれば納得するかは子どもそれぞれですが、必ずその日がくると信じて気長に寄り添いましょう。